IT前提経営®️ブログ

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社がIT、DXに関する様々な情報発信をしていきます。 

高柳がスピーカーを務めたウェビナー「ECの成功は”No Making, Just Using”の実践から」が YouTubeに公開されました。

いつもIT前提経営®ブログをお読みいただきありがとうございます。

先日高柳がスピーカーを務めたウェビナー
ECの成功は”No Making, Just Using”の実践から」のYouTube動画が公開されましたのでお知らせいたします
本動画は、ウェビナー主催者であるメッセフランクフルト ジャパン株式会社から公開されています。

木村硝子店のECが、立ち上げ段階からBtoBとBtoCにおける収益の柱となるまでの経験を通して、「作らず、使え」とはどういうことなのかをご理解いただける内容となっております。
是非ご覧くださいませ。





どうぞ宜しくお願いいたします。



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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
「IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く(近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
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オンラインはリアルに追いつけるのか。〜スピーカー視点でのwithコロナ〜

COVID-19で会議がオンラインになり、大学での授業やゼミもオンラインになりました。400名の履修者がいる大教室の講義もオンラインとなり、セミナーや講演会のほとんどはウェビナーになってしまいました。

こういう仕事を長くしていると、オーディエンスの表情を見ながら自分の話していることが受け入れられているか、理解して頂いているか、ということを汲み取りながら話の粒度を微調整していく感覚が身についています。
少人数のゼミなどでオンラインでも学生の表情を見ることができれば、ほぼ教室と同じコミュニケーションが成立しますし、同時にチャット機能も使えるので、ひょっとすると教室よりも良い授業が提供できている可能性はありますが、
問題は数百名の大講義とウェビナーです。

講義形式の場合は、学生が顔を出さないことが多いです。
顔を出すことを強制すると一種のハラスメントになるとかならないとかという議論もありますが、そもそも、400名のオンライン講義で顔を出されても意味がありません。
質問の時だけカメラをオンにするのはなんとなく自然発生的な「優しさ」になっていますが、基本はオフです。
これはウェビナーも一緒です。
先日もNo Making, Just Usingに関するウェビナーをやり、数百名の方に参加して頂いているとわかってはいるものの、基本的にはPCiPadに向かってスライドを送りながら喋り続けるという苦行です。
よく「壁に向かって喋っている」と言いますが、前述した通り、オーディエンスの表情を見ながら話す内容を微調整する側からすればウェビナーはかなりやり辛いのです。

しかし、これは今に始まったことではないことに気づきます。
よくよく考えると、テレビのキャスターやアナウンサー、そしてラジオのパーソナリティーは、ずーっとこれです。カメラやマイクに向かって喋り続ける訳です。
ラジオの方がリスナーに伝わる情報量が少ないから、「伝える力」は必要かもしれません。
では、ウェビナーや400名規模の講義で、どうやったら「壁に向かって話している」感がなくなるのか。
それは聞き手の配置だと思っています。

ラジオでもパーソナリティーとアナウンサーといった組み方の番組は多いですよね。
相槌をうってもらうだけでもだいぶ違います。
私みたいな大学教員も100分の授業でずっと喋っているよりは、ゲストスピーカーなどにご協力頂き、2人のディスカッションを学生に聞いてもらうようにした方が、聞く方も話す方も圧倒的に進めやすいし、わかりやすいコンテンツになります。
かつて、「ラジオデイズ」プロデューサーの平川克美さんが、「ラジオはコタツで収録できるからいい」とおっしゃったのは、まさにこのことです。

相槌だけでも全然違うので、最近は授業にTATeaching Assistantをつけて、相槌をお願いしたりもします。
これはラジオに倣ってやり始めたのですが、私の負荷も軽減されると同時に学生からも質問や議論を引き出せます。
COVID-191年目に、大学だけではなく高校でもオンライン授業やオンデマンド授業をデリバリーしなくてはいけなくなり、特に高校のオンデマンド授業では、友人の専門家や先生方にご協力いただき、「話し相手」になって頂いて、2人の「会話」を収録して授業としてデリバリーしました。
ちょっとした工夫ですが、ウェビナーを楽しくする方法は色々あると思っています。

このブログも2人の会話形式のポッドキャストにした方がいいなと前から思っています。
準備ができたらチャレンジしても良いかもしれません。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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弊社支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。
高柳の著書はこちらよりご参照ください。
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クラウド/AI時代の「情報主権」

クラウドサービスの導入にあたる議論の中に「情報主権」の諸問題がある。

 

つまり「そのデータは誰のものか」という争点だ。
当然、クラウドサービスの場合日々の企業活動で溜まるビッグデータクラウドベンダーが開発、運用するデータ基盤の中に蓄積されることになる。

では、このデータはユーザー企業、つまりこのサービスを利用する会社の所有物だろうか、あるいはクラウドベンダーの所有物だろうか。

答えはYesでありNoである。内部統制の効いた企業がクラウドベンダーと取引をする際、私はこの点をまずリーガリーに、つまり法的視点から整理するよう助言する。

 

さらに事を複雑にするのは、この答えは単にYes or Noではなくその間の判断基準がグレースケールに存在している点である。

例えば「当該データの所有権は、原則としてはユーザー企業だが、当該データの個別の企業名や顧客名が絶対に特定できないような統計処理をしたデータはクラウドベンダーの所有物だ」というクラウドベンダー側の理解もその1つである。
クラウドサービスの多くの約款にはこのように設計されている。

 

当然、クラウドベンダー側はこういったビッグデータを所有し、それを分析することで当該サービスをより良いものにバージョンアップしていく。

だからこそ私たちが「Fit To  Standard」を推奨できる環境を提供してくれているとも言える。

しかし、一方でその統計処理されたユーザー企業の顧客情報を、第三者に販売することがクラウドベンダーのビジネスになっていることもある。

この行為により同サービスのユーザーが当該サービスを安く使えている可能性もある。

 

ここで重要になるのが「情報主権」である。
統計処理されようが当該データのそもそもの所有権がユーザーにあることは事実である。
事実であるからそのデータの利用許諾をクラウドベンダーは求めてくる。
個人情報保護法におけるプライバシーマークの運用などもそうだが、顧客の情報の主権はどこまでも顧客にあり、顧客がその情報の削除を求めた場合いつでも事業者はそれに応じなければならない。

 

企業情報の「情報主権」は戦略そのものである。パブリッククラウドを呼ばれるAzureAWSGCPなど、どのクラウド基盤を選ぶかの判断基準にユーザーが持っているデータを「どこに預けるか」という視点が重要になる。AWSのケースは分かり易く、同時にAmazon側で小売ビジネスを行っている。AWSに乗ってくる小売事業者のデータについて「全く興味がない」ということはないだろう。

 

日本における個人情報保護法の議論や、欧州におけるGDPRのときの議論は、企業が扱う顧客の個人情報及びその情報主権の問題にフォーカスが当たったが、同様に企業情報の情報主権についても無頓着ではならない時代に突入している。

 

したがって、事業会社のDXプロセスにおけるITグランドデザインで、クラウド利用の大方針を「情報主権」の観点からロジカルシンキングすることは極めて重要な作業になるのである。

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

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誰のためのIT投資なのか。

企業のDXアドバイザーをしているとよくぶつかる課題に「導入したITが使われない」という類の経営からの悲鳴を聞く。

一方の現場からの声として聞かれるものは「またITが変わるのか」「使いにくい」「入力のメリットがわからない」というようなものだ。

 

これに対し、経営からの打ち手として、各部門長に対して当該IT利用やシステムへの情報入力に強制力を働かせたり、金銭的なインセンティブを出したり、といったことが行われていたが、残念ながらあまり効果はない。

 

経験的に、問題の根幹は当該IT利用のインセンティブではなく「理解」であると考えている。つまり、経営トップからそれを導入することの意味を、利用する全員が理解できるところまで丁寧に説明できていないのである。

 

私が経営してきた会社は、そもそもがインターネットやソフトウェアの会社だったり、それに関わるアドバイザリーの会社だったりするので、比較的説明をしなくても理解されることが多かったが、IT経験がベースにない事業会社であれば、そうはいかない。

 

では「IT導入の理解」とは何か。換言するとそのITを導入した場合「何が起こるか」だ。
DXの2つの大きな経済的効用は(1)トップラインの向上(2)利益率の改善、であるが、それは直接的には経営にとってのであり、必ずしも、現場の興味と一致しない。

 

つまり、そのITを導入することで「個人にとって何がおこるのか」と、「会社にとって(経営にとって)何がおこるか」を分けて整理して丁寧に説明しなくてはならない。

 

「そのITを使っても入力の手間が増えるだけだ」というクレームがあったとする。しかし、正しい「ITグランドデザイン」のあるIT導入ならば「一義的に皆さんの入力の手間は増えるかもしれないが、皆さんの暗黙知がシステムに入力されて形式知として共有されることで、会社としては最終的に営業利益が**%改善されることが見込まれる」というところまで説明できるとすれば、一義的な手間であってもビジネスマンならば入力に至る。

 

またRPAの導入などは直接的に現場の「手間」を削減するため、経営のインパクトまで説明せずとも、すぐに使ってもらえるケースが多い。

 

つまり「誰にとってのIT投資なのか」という点について「会社にとっては何が起こり」「個人にとっては何が起こるのか」の両面から丁寧に説明することが重要なのである。

 

この説明をするためにも、私たちの仕事の1つである「ITグランドデザインの構築」は非常に重要になるのである。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

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TDMAブログ改め「IT前提経営®ブログ」総集編

 

いつもTDMAブログをお読みいただきありがとうございます。

 

 

2020年4月14日の最初の配信から約1年ほど経ちました。

 

今さらですが、TDMAという言葉がわかりにくいため、

IT前提経営®という正式名称に変更することにしました。

 

ちなみにTDMAとは、Tech-driven Management Advisoryという社内用語です。

 

より興味深い話題を、見やすく読みやすく、を心がけながら、

引き続き情報発信していきますので、今後とも是非よろしくお願いいたします。

 

 

今回は、これまで配信した投稿を人気記事順に並べてみました。

ご興味のある記事が見つかりますと、大変うれしく思います。

 

 

ECの成功事例を振り返り思うこと
SNSもデジタルマーケティングという言葉もなかった2000年頃から最近まで、筆者が関わったECの成功事例を振り返り、たどりついた成功の要因について。


DX時代のSDGsの捉え方

学生に「希望する会社のどこを見るか」と聞いたところ「SDGsへの取り組みです」と回答された筆者が、DX文脈からそのこころを考察します。


【アプリの表示方法1つで大損失も】なぜUI/UXが重要なのか
スイッチからタッチパネルへの変化を考察していくと、UI/UXの重要性をより体感することができます。


【バズワードに飛びつかない】なぜITの「適切な導入」が重要なのか
必要なのは最新技術の導入ではなく「適切な導入」であることを、いくつかの例を挙げながら解説します。


ITグランドデザイン構築の本質は何か
DXは企業の文化そのものの変革であり、ITグランドデザインはITマターではなく、経営トップを交えた経営マターとして捉える必要があります。


楽器の大衆化に見るDXの本質
身近なDXの例として、楽器の「技術の大衆化」を取り上げます。

 

 

ユアサ商事の機関誌「機械と住宅」に高柳のインタビュー記事が掲載されました。
DXの実現についてのインタビュー記事になります。


【標準化の時代から多様化の時代へ】IT前提経営の6大要素の意味

「IT前提経営®️の6大要素」についてより理解を深めていただける内容となっています。

 <IT前提経営®︎の6大要素>

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活字の時代から音の時代へ(字→音)
少し前にClubHouseという音声SNSアプリがバズったことを覚えておりますでしょうか?
活字と動画(音声)の関係について書いた面白い投稿となっております。


モビリティ(移動)が向上すると、人は動かなくなる 〜道路、鉄道、飛行機、車、そして自動運転とは何なのか〜

IT前提経営®️の6大要素の中にある「モビリティの向上」についての記事です。


データ量とネットインフラの追いかけっこー5G時代に考えるべきことー
今から20年前に誰が、これだけ沢山の人が、日常的にYoutubeNetflixを見たり、朝から晩までネット会議をすると想像していたでしょうか。

「ベンダーロックイン」は企業の存続に直接関係する重大インシデント
経営効率化のために使うテクノロジーを、専門業者であるベンダーに外注すること自体は全く問題のない行為です。しかし、気をつけないとベンダーにロックインされるおそれがあります。


ネットリテラシー教育と内部統制

私は一般社団法人ネットリテラシー検定機構という団体の理事をしています。なぜネットリテラシーで法人が守られるのでしょうか。


【被害者全員への通知義務化 違反時は罰金など】サイバー被害に関する新しい法規制と企

業としての対策
最近(2021年5月)マッチングアプリで最大171万人の個人情報が流出した可能性があることが話題になっていました。何に「気を遣う」必要があるのでしょうか。


続・働き方改革の本質〜「場所・時間からの離脱」と「複業」〜
コロナ禍になって「働き方」についての取材や執筆依頼が増えました。今から12年ほど前、経営していた会社を「ノマドワーキング化」したことについて振り返ります。


緊急事態宣言で、図らずして強制的に「テレワーク」社会になって私たちが出来ること

東京に最初の緊急事態宣言が発令され、強制的にテレワーク社会になりましたが、その先はどうなるのでしょうか。

 

 

代表電話を廃止しよう~ノマドワーク・テレワークへ移行する方法~
完全テレワークへの移行を考えるベンチャー企業の集まりに参加したところ、「電話があるからオフィスは無くせない」というコメントがありました。

 

 

高柳が働き方改革に関する緊急寄稿を行いました

コロナ禍においても働き方改革(特にテレワーク)が進まない現状を、弊社が提唱するIT前提経営®️の構成要素の1つである「ノマドワーク」の切り口で解説します。

 

 



今後ともIT前提経営“ブログをどうぞよろしくお願いします。

 

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弊社支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。
高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

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TDMA
ブログ改め「IT前提経営®ブログ」総集編

ユアサ商事の機関誌「機械と住宅」に高柳のインタビュー記事が掲載されました。

いつもTDMAブログをお読みいただきありがとうございます。

本日は、弊社がアドバイザーを務めさせて頂いておりますユアサ商事の機関誌機関誌「機械と住宅」5月号に弊社高柳のインタビュー記事が掲載されましたのでお知らせいたします。

ユアサ商事株式会社のご好意により、当ブログでも記事を公開させて頂けることとなりました。


高柳が提唱しておりますIT前提経営®️や、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進について、より理解を深めていただける内容となっておりますので是非ご覧ください。

 

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高柳の著書はこちらよりご参照ください。

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楽器の大衆化に見るDXの本質

インターネットができて情報が民主化したという文脈は皆さんも良く耳にすると思います。
それまでは一部の権力や大資本しか扱えなかったコンピューターやネットワークを老若男女が手にして、かつ、そのコンテンツである情報にアクセス可能になったいうのが「IT革命」の本質で、これまでもこのブログで議論してきた通りです。

 

「技術の大衆化」というキーワードは私がこの25年追いかけているテーマです。例えば、テスラによってEV化した車は、それを体現したとも言えます。エンジンやミッションといった重要な機関は極端に複雑なメカニズムであったため、研究開発や実装に大きな資金や人的資源の投入とを必要としてきました。EV車はそうしたことから開放され、開発経験の少ない新規事業者の参入障壁を取り除くことにつながって、自動車の開発、生産、販売が大衆化さてきていると言っても過言ではありません。

 

金融もテクノロジーとして捉えれば、私たちが一括払いでは買えない家や車をその担保価値と引き換えに月賦で変えるようになったのもファイナンスの大衆化と言えますし、予防接種もテクノロジーとして捉えれば、これも大衆化して、広くあまねく、日本国民は、ウィルスなどに対して安心な生活を手にしているのです。
もう少し俯瞰すると「教育」もまた大衆化したと言えます。
高等教育である大学が「大学全入時代」と言われて久しいですが、「読み書き算盤」が全国民に浸透したのもまた、教育という一種のテクノロジーが大衆化したことに由来します。

 

この文脈で、私がここ10年興味をもっているのが「音楽」です。
マックス・ウェーバーが『職業としての学問』や『職業としての政治』を書いたのは1919年の講演をもとにしてですが、そのはるか昔の欧州の音楽家は、宮廷音楽家がほとんどでした。つまり貴族のために音楽をつくり、そして演奏したのです。今私たちが耳にするクラシック音楽の多くはこれに由来します。つまり、この時点で音楽はまったく大衆化しておらず、先の車のエンジンやミッションのように、一部の権力や大資本だけが牛耳っていたのです。この場合、権力は貴族などの特権階級で、大資本は、さしずめ、メディチ家といったところです。

 

楽器もまた一部の特権階級のものでした。「フレットレス」(指板にある隆起やマーキングがない弦楽器のこと)という言葉がありますが、バイオリンなどの弦楽器の多くはフレットレスで、相当な練習をして感覚(音感や奏法)を身につけないと正しい音が出せません。一方、そういった弦楽器よりも後に開発されたピアノなどはーーその原型はハプシコードですがーー「ド」を割り当てられた鍵盤を叩けば、誰でも、正しい「ド」の音が出るため、フレットレスの楽器よりも、一段、簡単になり大衆化したと言えるのです。しかし、そうは言ってもです。ご承知の通り、1オクターブの間に12の鍵盤(白鍵7、黒鍵5)があり、1鍵盤あたり白鍵が約20mm、黒鍵が約8mmですから、これをミスなく両指を駆使して音を出せ、というのは、当然ながら相当な練習が必要で、奏法自体はいまだ大衆化したとは言えないと思うのです。

 

しかし、これにチャレンジしたのが、楽器の電子化です。鍵盤楽器をやる方はよくご存知の通り、ある曲をハ長調で弾く場合と、ト長調で弾く場合では、黒鍵の数が違ってきます。後者はファに#が入るため黒鍵が1つ入って、ハ長調より複雑になります。すべての音階でこの曲を弾こうとすると、12パターンの白鍵と黒鍵が入り混じった動きが必要になります。すべての音階で一つの曲を弾くのは、相当程度、音楽と楽器が身に付いていないとできない訳ですが、楽器が電子化したことで「トランスポーズ」という機能がつき、一つの音階で(例えばハ長調)その曲が弾ければ、ボタン一つで、仮に「+1」に設定すれば、その瞬間、黒鍵5つすべてを使い、弾くのに非常に苦労する嬰ハ長調C#)に転調することが可能になります。これは相当大きな進歩で、長い楽器の歴史の中で、アコスティックピアノにこの機能を実装し、ハンマーと弦を移動可能な仕組みを検討した開発者もいましたが、あまりに大掛かりですべて失敗してきました。しかし、楽器のデジタライゼーションは、いとも簡単にそれを実現してしまったのです。

 

例えば、ヤマハという会社は、電子ピアノ以外にも、エレクトーンの商標で知られる電子オルガンを開発し、これに財団法人ヤマハ音楽振興会(1966年設立、現一般財団法人)が加勢し、日本のみならず、世界にその「教具」としてのエレクトーンを使った教育を広めました。いわずもがな、エレクトーンは、誰もがフルバンドの音楽を奏でられる夢の楽器になったのです。
しかし、エレクトーンは1台50万円の上が当たり前の楽器で、入門機は廉価であっても、後に買い換えが必須となることもあり、バブル景気に沸いた日本には定着するものの、それなりの場所を取るため、住宅のマンション化などにしたがって、同時に景気減退でその勢いを失って行ったのです。

 

一方、それと平行して、シンセサイザーと呼ばれる電子楽器が盛んになってきました。
冨田勲氏などシンセサイザー楽家と呼ばれる音楽家が世に出たり、坂本龍一率いるYMOが一世を風靡したりしましたが、元々はプロやセミプロが使う特殊なデジタル鍵盤楽器でした。しかし、80年代に入り、ヤマハTMネットワークとしてデビューした小室哲哉というタレントをスーパーバイズする形で、このマニアックな楽器を一気に表舞台に出しました。この時の勢いは、タレントへの物品提供の域をはるかに超え、もはや、プロダクトプレイスメント的な手法になっていたように思います。

 

その時、ヤマハが誇るシンセサイザーDX7(1983年発売)という楽器がありました。今やシンセサイザーの名器となっていますが、しかし、この時点で、当時の本体単体の価格は24万8000円でおいそれと人々が手にできる価格ではありませんでした。そこで、ヤマハは、その大衆化を図るべく、小室哲哉によってプロデュースしたEOSというシリーズのシンセサイザーを1988年に10万円台半の金額で世に出し、これが大ヒットするのです。

 

ただし、いわゆるキーボード(鍵盤)は健在で、その訓練を受けた人にしか弾けないわけで、まだ完全に大衆化したとは言えませんでしたが、先の財団の成功により、多くの人が小さいときから鍵盤に親しんでいたため、少し鍵盤に慣れていれば、難しい音階が自動で奏でられるアルペジエーター機能を使うことで複雑な演奏がこなせるようになりましたし、ほとんど鍵盤を弾けなくても譜面を入力していくことで、音楽が完成するいわゆる「打ち込み」による演奏補助・自動演奏もこの時に爆発的に流行るのです。

 

この「打ち込み」はシーケンサーと呼ばれる機能に依拠しますが、ついには、大衆化を阻害している鍵盤無しのシンセサイザーとしてそのシーケンス機能に特化したQYシリーズが登場し、電車の中で通勤中にイヤホンをして音楽を作ったり編集したりする「楽器」が登場するのです。

 

もはやこの段階で、それらは、パソコンなのか、楽器なのか、その境界線は曖昧になりはじめていましたが、しかし「鍵盤からの開放」は、イコール大衆化を意味しているのではないかと、当時感じたのを今でも覚えています。

 

それから数十年の月日を数えますが、これらの歴史的シンセサイザーは、当時、1台数百万円以上したような高価なものが、今ではアプリとして再現され、数百円から数千円になってデリバリーされています。また、鍵盤がなくても、音楽を作ったり、編集したりできるようなアプリも大量に出ており、ゲーム感覚で作曲できるニンテンドーSWITCHのゲームアプリも出てきました。いわゆる、小さき時に親に半ば強要されてピアノを習得したことの無い人でも、だれもが、高度な音楽を作ることができるようになったのです。

 

つまり、ヤマハのような会社の楽器のデジタライゼーションの挑戦は、楽器の大衆化の歴史と言っても過言ではないのです。

 

さて、学校へ行くと、必ずピアノをはじめとする鍵盤楽器があります。これは「教具」としての楽器です。つまり「教育」というプラットフォームを利用して、楽器を大衆化させたその様は、以前このブログで述べたように、アルバート・ゴア・ジュニアが「教育」予算を利用して、全米の学校や図書館をインターネットで繋いだNII(National Information Infrastructure)とまったく同じ構造なのです。

 

鍵盤楽器に限らず、弦楽器や管楽器も同様にデジタライゼーションされ、安く良い音が出る楽器が開発され、当初はそれはおもちゃのような出来栄えなのですが、プロのミュージシャンに物品提供されることで、マーケットが開けてくるのです。

 

となると、もともとの、ピアノ、とくにグランドピアノのような重厚長大なものは、完全に「芸術品としての楽器」となってしまい、マーケットもシュリンクしていくのかもしれません。事実、ピアノも都市部の住居の変遷と、デジタル音源の成長により、どんどん電子ピアノに置き代わり、いわゆるアコースティックピアノのマーケットは小さくなっていきます。

 

そうした社会状況の中で、大衆化した楽器によって、多くの人はその恩恵を受け、音楽を手軽に楽しめるようになってきています。しかし、これはサステナブルなのでしょうか。インターネットの多くのサービスがサブスク(料金を支払い一時的に利用すること)になっているように、楽器もまた、1台のモノとしての付加価値がどんどん下がり、そのビジネスモデルが移り変わってきています。

 

もちろんヴァルター・ベンヤミンが議論した「アウラ」みたいなものがあり、1台数千万円するグランドピアノは、その尊敬の対象として健在であるわけですが、しかしそれは、テクノロジーの大衆化の文脈においては、バーチャルでしかありません。
アウラ:オリジナルの芸術作品にのみに宿るオーラ

 

DXが進む社会といのは、言い換えると、効率化と大衆化の社会かもしれません。「アウラ」のある本体は尊敬の対象として「どこか」に厳重に保管されているのですが、私たちは、大衆化したコピーのようなものを使っては捨てを繰り返す社会です。詳細は紙幅の都合でここでは省きますが、事実「スーパークローン文化財」という概念もあり、東京芸術大学などがこの研究に取り組んでいます。文化財を精密な3Dデータで後世にしっかり残していくようなイメージです。この議論は首里城の火災のときもフォーカスされました。もはや「本物」は何かというのは「アウラ」でしか説明が付かなくなってきています。それがDXが進む社会の一つの側面であることは疑いの余地もありません。ベンヤミンの議論は彼の代表作である『複製技術時代の芸術』で昇華していますが、「複製技術」というのは、今の時代においては紛れもなくデジタルのことであり、今流の「複製技術時代」というのは、まさにDXが進む社会の時代だと言えると思います。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー
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高柳寛樹

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