IT前提経営®️ブログ

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社がIT、DXに関する様々な情報発信をしていきます。 

システムは「作らず、使え(No Making, Just Using)」 〜なぜ今 Fit to Standard が重要なのか〜

今年もゴールデンウィーク明けにインテリア・デザインのための

国際見本市 interirorlifestyle TOKYO が東京ビックサイトで開催されます。

 

明治43年創業の老舗硝子店「木村硝子店」ECサイト及び基幹システムの構築秘話を、

創業家の木村祐太郎専務取締役と小職でお話させて頂きます。

f:id:TDMA:20210416151123p:plain

 タイトルは「ECの成功は”No Making, Just Using”の実践から」です。

この”No Making, Just Using”という言葉は、最近私が企業にアドバイスをさせていただく際に使っている言葉です。


以前ポストしましたが、日本の事業会社のシステム開発の内製率と外注率は、米国の7:3に比べ、3:7と、外注率がかなり多いのです。これがシステムのブラックボックス化やベンダーロックイン状態を招く大きな要因になっています。

 しかし最近は Fit to Standard (FtS)新たに追加開発を行わず、標準機能の中から必要なものを組み合わせて短期間、低コストで効率よく導入する手法。)という言葉があるように、システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせる思想が主流になりつつあります。これはシステムがクラウドサービス化したことにより、多くの企業が一つのシステムを使うため、利用者からのフィードバックが日々日々アップデートされて、結果、最新の業務フローになっていくことが影響しています。したがって、個別の事業会社が、恐る恐る業務改革と称してTo Be業務を想定し、それに最適なフルスクラッチ(既存のものを使用せず、1から開発すること。)のシステムを開発するという、大きなリスクをとる必要がなくなったのです。つまり、クラウドサービス化したシステムは、ある意味自然にアップデートされるため、ほぼその時代の最新だと考えられるためです。


この辺りの仕組みについては2008年10月15日のNHKクローズアップ現代「新情報革命”クラウド”の衝撃」で詳しく表現されていますので、ご興味のある方はNHKオンデマンドなどでご覧になってください。

 したがって、事業会社が自らのためだけにシステムを開発する必要がなくなりつつあるため、かならず世界のどこかには存在するであろう、既存のシステムーーこれをパッケージとかサービスと表現することもありますがーーを探しあてて、それを上手く使えば、利用料だけ支払って、開発費と開発リスクをとらなくて良くなったのです。この思想は、私が常々申し上げている「IT前提経営®️」の思想そのもので、もっとわかりやすく

 

No Making, Just Using(作らず、使え)

 

という標語を作り、ITグランドデザインの構築をお手伝いする際に皆さんに共有させて頂いているのです。

 

今回の木村硝子店様との対談においては、ECだけではなく、基幹システムも、それまでのフルスクラッチから No Making, Just Using の思想に基づいてフルクラウドサービスの利用に踏み切る、経営的意義を、DXアドバイザーの立場からだけではなく、事業現場からのお話も含めて、議論してみたいと思っています。

※ご興味ある方は来場の事前登録が必要となりますのでこちらよりお申し込みください。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

---
弊社支援の事例をまとめた資料については弊社の
IT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。
また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。
IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
---

DX時代のSDGsの捉え方

先日、就職活動中の学生に「希望する会社のどこを見るか」という話を聞いたところ「SDGsへの取り組みです」と大真面目に言っていました。少なくとも私たちの世代ではあり得なかったことかなと思うのですが、日々若い学生と接していると、この手の話は今のデジタルネイティブの特徴の一つだと気づきます。

 

さて、そのSDGsですが、私が住む長野県白馬村2019年12月に「白馬村気候非常事態宣言(Climate Emergency Declaration)」を表明しました。

白馬村は国から特別豪雪地帯に指定されていますが、年々雪の降り方や、気温がこれまでと大きく且つ急激に変わってきていることを体感します。

夏が暑くなり、冬が短く、雪は降ってもすぐ溶けてしまう印象です。1日も長く雪が残って欲しいスキーヤーとしては居た堪れない気持ちですが、しかし、私たちが便利な生活を無尽蔵に追い求めてきた結果だとすれば、真摯に受け止めなくてはなりません。

 

気候変動は待った無しですが、それでもスノーリゾートが生き残るためには、やはりDXが必要と強く思うのです。

私が言うDXというのはITシステムの導入のようなことではまったくなく

「文化の更新」「人事施策」「科学の導入」の3点です。

f:id:TDMA:20210331175308p:plain
気候変動を今日の明日で解決することはできません。

となると重要なのは自ずと「緯度」と「標高」であることがわかります。

長野県よりも北海道の方がコンディションが良くシーズンは長いですし、白馬村でもスキー場の下方は3月後半にはクローズしはじめていますが、2000M付近のコースはGWまで営業できます。そこに「テクノロジー」という要素を加えます。

つまりここで言うテクノロジーとは標高の高いところに人を運ぶリフトやゴンドラの類だったり、寒ければ雪をつくることができるスノーマシーンのことです。つまり「緯度*テクノロジー」「標高*テクノロジー」というのが見えてくると、次の経営戦略へと結びつくのです。

 

前述した通り、私のDXの理解は「文化の更新」「人事施策」「科学の導入」の3点ですから、「緯度」と「標高」という科学(事実)を捉えた上で、しっかりビジネスにインプリメンテーションすることが重要ということになります。

そしてDXですから、そこにテクノロジーが必ず塗されるのです。

 

緯度の高い、例えば北海道のような場所や、標高の高い場所は、スノーリゾートだけではなく、農作物や海洋生物の「移転先」としての価値も検討されます。

ただし気をつけなくてはいけないのは、ゴンドラやスノーマシーンといった技術は大量のエネルギーを使います。片方で気候変動をなんとかしたいと言いながら、大量のエネルギーを使う構図になってしまい、どうやってニュートラルにするのかという議論を積み重ねなくてはなりません。既に外資のリゾートではSDGsを担当するCxOが一般的になっており、日本にも徐々にその風潮がきているのはそういった背景があります。

 

ところで、個人的に、スノーリゾート活動の中でPHEVの車を導入しました。

村内だけ、リゾート内だけであれば、十分にバッテリーとモーターだけでゼロエミッションが可能です。ただ、難しい問題もあり、私が導入したPHEVは後輪をモーターが、前輪をエンジンが担当します。豪雪地帯ですから、スノーシーズンは100%四輪駆動状態になくてはならず、結局エンジンを動かさなくてはなりません。

また、電気を貯めるための回生ブレーキアイスバーンが日常茶飯事の環境では予期せぬスリップを招くため、これも切らなくてはなりません。また、そもそも、200Vの充電設備をフル稼働させると、真冬の床暖房の利用度が高い状況で、かつ、IHで料理をしているときにブレーカーが作動してしまうため、電気の契約を40Aから80Aにする必要があり、年間5万円を超える追加出費になりました。PHEVでゼロエミッションを実現できても、最終的にエネルギーは移転しただけで、お金で肩をつけただけです。もはや、何をもって「ゼロエミッション」なのかわからなくなってしまいました。難しい問題です。

 

この難しい問題に対し、豊田章男氏は2020年12月17日に自工会の会長の立場で危機感を伴ったスピーチを行い、多くの人が注目しました。同時に、いわゆるCASE(Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化))への後押しは待った無しで、国内においても自動車税の全額免税措置や相当程度の補助金が用意され、補助金だけで総額300万円を超える試算も飛び出しています。

 

ここまで勢いがつくと、本当にこれが気候変動に資するのかどうかという議論に霞がかかってくるようにも感じる一方で、日本メーカーと欧米勢(特に米国)のこの「風」の捉え方の差もとても気になります。特にCASEを経営で捕まえるときIT前提経営®️の思想はとても重要だと考えており、例えば、テスラのギガファクトリー(上海工場)における鋳造技術の導入などは、これまでの常識を覆すものだと世界中から驚嘆されているのです。

 

さて、話をDXに戻しますが、「文化の更新」「人事施策」「科学の導入」の内、残る2つ、つまり「文化の更新」と「人事施策」ですが、まさにギガファクトリーで起こっていることは単なる技術の選択の域を大きく超えた「文化の更新」であり、車のマニュファクチュアラーとしては異例の人数の社会学や哲学のPh.D.の雇用や、ソフトウェアエンジニアの雇用は「人事施策」であり、テスラなどは三拍子揃ったDXを実践している企業と言えるのだと思います。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

 

----

IT前提経営®︎アドバイザリーでは、IT導入のハードルを解消する具体的な助言(セキュリティ担保などの必要なIT投資や社内ルールの整備などに関するアドバイス)による働き方改革の推進についてご支援させて頂いています。

ケーススタディ_働き方改革支援

その他支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。

また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

----

 

 

モビリティ(移動)が向上すると、人は動かなくなる 〜道路、鉄道、飛行機、車、そして自動運転とは何なのか〜

 

人間固有の好奇心の中に、移動、が入っている

IT前提経営®️の6大要素の中に「モビリティの向上」というのが、なぜ入っているのかという質問をよく受けます。詳細は私の近著『「IT前提経営」が組織を変える〜デジタルネイティブと共に働く〜』近代科学社Digital)の中で触れていますが、そもそも前にもポストした通りテレサイエンスに関係していて、人間固有の好奇心の中に、移動、が入っているからに他なりません。頭に「テレ」が付くテクノロジーは、テレ・フォン、テレ・スコープにはじまり、すべて、人間の欲望を満たすテクノロジーでした。私が依拠する社会学では、ジョン・アーリが2007年に『モビリティーズ――移動の社会学』を書いていて、そこにエッセンスは詰まっていると思っていますが、古くは、コロンビア大学の故・マイケル・ハウベン博士の「ネチズン」の議論や、公文俊平先生の「智民」の議論と同義です。ここは繰り返しになるので、前のポストを参考にしていただければと思います。

 

移動の欲求はテクノロジーに昇華してきた

「移動」にあまりにも人間が興味があるので、その実現のために欲望はテクノロジーに昇華しました。1900年代初頭のアメリカにおける、馬車から車へのたった10年ちょっとでの大転換した事実は、その写真と共に有名になりましたが、それ以降もゴア副大統領の父であるアルバート・ゴアによる全米ハイウェイ構想(州間の自動車用高速道路)をはじめ、ライト兄弟的な夢としての飛行機ではなく、移動手段としての飛行機や、日本の新幹線、アメリカの自家用セスナ、プライベートジェットやヘリコプターのシェアリングなどなど、とにかく、人は移動に血道を上げてきたのです。

 

移動がさらに発展すると、移動しなくなる

また、この人の移動という現象は、さらに発展すると、移動しなくなる、のです。これも、私たちは1990年代から議論を重ねてきましたが、どこでも仕事ができるようになり、場所から開放されてくるのは事実なのですが、結果、動かなくてよくなってしまう、という現象が起こるのです。まさにコロナ禍におけるテレワークでその一部を皆さんも体験したかもしれませんが、私みたいな田舎暮らしですと、北アルプスの麓の小さな村から一歩も外に出ず「まったく全ての業務」が完徹できてしまうわけで、もはや、移動の必要がないのです。

 

つまり、高度な移動を実現する時代は、遂には、移動しなくなる、のです。

 

インターネットにより、遂には移動しなくて良くなった

これは何かの因果かもしれませんが、全米ハイウェイ構想を成し遂げて、モビリティー(又はモービル)の時代の幕開けを作ったアルバート・ゴア議員の息子で、第**代アメリカ合衆国副大統領のアルバート・ゴア・ジュニアは、彼の政治人生の全てを、NII(National Information Inflastructure)GII(Global Information Inflastructure)に費やし、結果、米国がインターネットで世界におけるとてつもない地位を獲得し、そして、父親が開拓したモビリティー時代を、さらに高度なモビリティーの時代に押し上げて、遂には、移動しなくてよくなった(オンライン会議やオンライン授業を想像してください)、というのが史実だったりするのです。

 

それでも人は動き続ける

とはいえ、そうやって脱場所化していけば、余暇の考え方も大きく変わり、家族で10日を超える長期で「働きながら」旅行をするような、日本的な「週末旅行」とは異なる価値観が芽生えるのも事実です。特に欧米にはこの手の事例は沢山あり、超高度モビリティの時代にも人は動き続けるというのが現実なのだと思います。

 

一方で映画『WALL・E/ウォーリー』で描かれた未来の人間は、超高度モビリティ時代にまったく動かなくなり、家族で寝たままで生活しています。食事も自動的に配膳され寝たまま食べるのです。結果、体は肥満体型になり、全ての人間が自分では歩くことはできないのですが、まさか、現実が、さながらその世界に着地することは流石に想像できません。

 

移動を自動運転でどこまで楽にできるか

さて、そうすると、イーロン・マスク然り、移動をどこまで楽にできるのか、というのが私たち人類の共通の興味となります。自動運転に係る技術も、今年にはホンダ(レジェンド)とメルセデスベンツ(Sクラス)がレベル3を実装した車の発売を予定しており、該当する法律も更新されました。こうなるとシステム作動時の責任は運転手ではなくなります。つまり、システム作動時はスマホを見ることができる「可能性」があるのです。

 

自動運転は、モビリティーの向上に資する「大衆的な」技術の一丁目一番地

私も、スノーリゾートをぐるぐる回る仕事において、レベル2を実装した車を使っていますが、お使い頂いた方は体験的にご理解頂けると思いますが、とにかく片道400キロを優に超える長距離移動はこの上なく楽になり、長時間運転による腰痛や頭痛や眠気などの身体的苦痛から開放してくれます。中年になってよりその恩恵に預かっています。したがって、IT前提経営®️の視点に立つと、先進運転支援システム(ADAS: Advanced Driver-Assistance Systems)の発展というのは、モビリティーの向上に資する「大衆的な」技術の一丁目一番地なのです。

 

人は「より動き」、「より動かなくなる」

このように、劇的な技術の進化により、モビリティーが高度に向上すると、人々はある側面から見ると「より動き」、同時にある側面から見ると「より動かなくなる」のです。何だか狐につままれたような話になってしまいましたが、この相反するビヘビアを併せ持つのは人そのもので、その人が、皆様の会社や学校、社会を組織しています。こうした新しい特性をもった「人」に対して、どんなサービスを展開するのか、どんなインフラやイベントを用意するのか、それが問われるのが、まさに、今年以降のビジネスなのです。したがってIT前提経営®️の6大要素の中には、働き方に関する「ノマドワーク」の他に独立して「モビリティの向上」という切り口が内包されているのです。そのベースとなっているのは、人の欲望が昇華した「移動」を助けるテクノロジーそのものであるということを理解することがとても重要なのです。

 

IT経営前提®️6大要素

f:id:TDMA:20210310133806p:plain

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

 

----

IT前提経営®︎アドバイザリーでは、ノマドワーク導入のハードルを解消する具体的な助言(セキュリティ担保などの必要なIT投資や社内ルールの整備などに関するアドバイス)による働き方改革の推進についてご支援させて頂いています。

ケーススタディ_働き方改革支援

その他支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。

また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

----

 















 

 

 

 

 

 



 

 

データ量とネットインフラの追いかけっこー5G時代に考えるべきことー

インフラ整備とデータ量の追いかけっこがクリティカルになってきています。

 例えば今は「5G」の話題が花盛りです。

5Gになると何が変わるのか?という問いへの教科書的な説明は、

(1)多接続

(2)低遅延

(3)高帯域(ブロードバンド)、への対応です。

つまりこの3点において4Gより勝るということです。例えばラッシュ時の駅などに行くと、スマホのアンテナマークはしっかり立っているがネットが繋がらないという経験をしている方も多いと思います。もちろんその理由は複合的なのですが(1)と(3)の問題に主に起因します。では、5Gのアンテナが張り巡らせられればこの問題は解決するのでしょうか。

スマホの台数は既に上限(つまり人口辺り1人2台程度)だから解決する方向だという意見もありますが、IoT(Internet Of Things:モノのインターネット)時代に突入し、そこかしこにある自動販売機や監視カメラなどにもアンテナが取り付けられ、ネットに繋がっていたりと、まさに、全てのメカ(モノ)が簡単に安くモバイルインターネットに接続できるうになりました。もちろんCASE文脈におけるクルマもIoTのTの一つです。5Gになってどれだけ「多接続」になったところで、いつかはその限界に達するのです。

もうちょっと分かり易い話をすると、東京や都市部の集合住宅に住む方々は夕方のネットのスピードにストレスを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私は長野県の田舎と東京とを行き来する多拠点生活者ですが、夕方の東京は「下り1GMbps」を宣伝する比較的値段の高いインターネットサービスプロバイダー光回線でも2桁Mbpsまでスピードが落ちてしまい、場合によってはZOOM会議すら不安定になってしまいます。特にコロナ禍でのテレワークの影響も大きいでしょう。

 

さて、今から20年前に誰が、これだけ沢山の人が、日常的にYoutubeNetflixを見たり、朝から晩までネット会議をすると想像していたでしょうか。

大昔はテキストだけの時代でした。BBS(Bulletin Board System:電子掲示板システム)があり、皆、テキストや絵文字でコミュニケーションをとっていました。ウェブの登場で、そこに画像や動画が加わり、今では、テキストと同様、あるいはそれ以上に、動画ーーそれを因数分解すると、音声と動画ですがーーが増えてきています。つまり、インターネットのインフラの上に乗るデータ量が格段に増えているのです。加えてNHKも総合とEテレのほぼ全てのコンテンツ(番組)を高画質でインターネット側にサイマル放送NHK Plus)をし始めましたし民放もTVerなどのチャレンジをしています。これは国際的な潮流です。私たちはそれによってだいぶ便利になってきているのですが、一方で大変なのは、インフラ屋側です。動画が4Kになり、近い将来には8Kになりと、どんどんデータ量が増えていけば、それに応じた投資をしなくてはなりません。

このデータ量とインフラ投資のループのスピードが遅い時代はよかったのですが、ここ10年はそれが極端に早いのです。それが5Gのようなモバイル通信であったとしても、光ファイバーに代表されるランドラインであったとしても、単にデータ量とのせめぎ合いですから、回線速度をコミットしないベストエフォートの回線(契約)である限り、タイミングによっては、「遅くてストレス」または「つながらない」という事象から完全に開放されることは、まずないのではないかと思います。

この辺の詳しいことは『インターネットは誰のものか〜崩れ始めたネット世界の秩序〜』に書かれていますので、ご興味のある方は読んでみてください。

 

私どもの提供するIT前提経営®アドバイザリー(TDMA:Tech Driven Management Advisory)の仕事をしていると、5Gによって薔薇色の世界が到来し、ビジネスの効率化も薔薇色になるという期待を経営者の方々からよく聞くのですが、少なくとも、そうはならないということを説明させて頂くことが多いです。

ギャランティー型の専用線を確保しない限りは、今後もインフラ敷設の投資とデータ量のかなりシビアなせめぎ合いの中で「遅い」「繋がらない」というストレスを抱えながら、この問題とうまく付き合っていくしかない、というのが現実なのです。

ぜひご自身のスマホのデータをご確認してみてください。私はiPhoneですが、写真と動画をそこそこ撮るのと、音楽も沢山入っているため、もはや小さなスマホの256GBのSSD(Solid State Drive:HDDに似た記憶装置。現在はPCやスマホなど多くのデバイスがHDDの代わりとしてこの記憶装置を利用している)は目一杯です。一方で、Appleはユーザーが意識しないうちに、どんどんクラウド化を進めています。音楽データはクラウド側で保持して都度ダウンロードしながら聞くという運用になりはじめているので(実はネットに全く繋がらないところだと聞けない場合もあるのですが)、ローカル(つまりスマホ側)のデータはミニマイズできます。同様に設定次第では、写真や動画もスマホにはミニマムでオリジナルはクラウドへとなってきています。もちろん、クラウド側が膨大になれば、そこにお金を支払わないといけませんが(私は2TBの契約で月々1,400円ほどをAppleに支払っています)、その代わりとして、バックアップの心配や写真や動画の節約からは一旦開放されます。一方で、手持ちのスマホの記憶容量を小さく抑えるということは、同時に、写真、動画、音楽のファイルを都度都度クラウド側に見に行くということと同義ですから、当然そこで、パケットを消費する=インフラに負荷をかけることになります。これを全世界の何十億人もの人がやることを考えると、その負荷は想像を絶します。個人だけではなく、エンタープライズ側にも同様の議論があり、例えば、CRMクラウドSalesforce.comと基幹システムのSAPクラウドAPI連携をするというごく一般的な構成を考えた場合、日々の大量のトランザクションがインターネット経由でやりとりされることになり、インターネットのインフラに負荷をかけることになります。(インフラ側のビジネスでインターネットを介さず大型クラウド同士を専用線接続するサービスもではじめてはいます)。

 

昔話になりますが、私が大学院生の頃のインターネットの接続スピードは64Kbpsから128Kbpsにやっとなった時代でした。いわゆるNTTのISDNです。今のランドラインのインターネット回線のスピードを仮に500Mbpsとした場合、実に5000分の1くらいでしょうか。さらに数年前の学部生の時代はファックスモデムから9600bpsや14400bpsといった更に単位が下方向に違うスピードで大学のコンピューターを介してインターネットに出て行った時代ですから、今からでは想像もつきません。その時代にネットに定額で繋ぎ放題となる時間は23時から翌早朝までだったことを思い出します。したがってユーザーは事実上、夜中しかネットができない、という時代だったのです。もちろんその時代から比べると夢の様な環境になった訳ですが、ただ結局のところ、その時と事情は変わっておらず、大容量データ時代に快適なインターネット環境を一般ユーザーとして確保しようとした場合、時間の折り合い、言い換えると、道路の譲り合い、をしなければ上手くいかないのです。

 

この議論からも分かる様に、技術に一定の理解が無いと、次のデジタルの一手が打てなかったり、間違った一手を打ってしまうのです。IT前提経営®の基本的な哲学は、まさにそこにあるのです。



(今回の与太話)

今回はインターネットの通信インフラの話をしたのですが、実はもっと身近なところでもこの問題は起きています。ホームビデオやアクションカメラ(もちろんスマホの動画撮影機能も)が大衆化して久しいですが、4K動画のような超高画質(高音質)が撮影できるガジェットが、普通の値段で普通に買えるようになりました。4KとHDの2つのカメラがあれば、せっかくだから高画質を、と4Kを選ぶのが消費者の心です。しかしこの4K動画の扱いが大変です。撮影した機材のSSDやSDカードに録画されるまでは良いのですが、それをPCに転送したり、PCの中で編集したりすると、転送速度やマシンパワーが追いついてきません。転送するのに1日かかってしまったり、編集しようとしても何度も編集アプリがダウンしてしまったり、その繰り返しを経験した人は少なくないのではないでしょうか。これも実は同じ問題で、人の欲望に従ってデータ量だけは無尽蔵に大きくなるのですが、その処理をしたり、伝送したりする側がまったく追いついていかない事例の一つです。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

 

----

IT前提経営®︎アドバイザリーでは、ノマドワーク導入のハードルを解消する具体的な助言(セキュリティ担保などの必要なIT投資や社内ルールの整備などに関するアドバイス)による働き方改革の推進についてご支援させて頂いています。

ケーススタディ_働き方改革支援

その他支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。

また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

----

 

活字の時代から音の時代へ(字→音)

Clubhouseという音声SNSアプリがバズっています。

早速ご招待を頂きパトロールをしていると「立ち聞き」感はとても楽しく、プライベートに2-3人でマニアックな話をしていると、たまに入室者が現れ、話もできます。

イーロンマスクが現れ一気に5000人の立ち聞きが現れサーバーが落ちたり、元AKB48小嶋陽菜が「降臨」して騒ぎになったり、「成功者」というおじさん達が自慢話を繰り広げてデジタルネイティブにディスられたり、と話題に事欠きません。

 

SNS時代に面白いのは、活字と動画(音声)の関係です。

数年前に、私が受け持っていた高校3年生の授業で、活字と動画(音声)に関するアンケートをとったことがあります。

この時の仮説は「音声の時代から活字の時代」(音→字)に移行しているのではないか、というものでした。

 

振り返ると、1970年代後半生まれの私の世代は完全に音声の時代でした。

中高生の時代には、とにかく友だちと家に帰ってから夜遅くに長電話をした記憶があります。「メディアとしての電話」は「脱・場所」を実現してくれる数少ない技術でした。

しかし最近はLINEに象徴されるようにテキスト(活字)のコミュニケーションに移ってきているのではないか、という仮説です。

実際、私たち世代も日々の仕事のコミュニケーションは電話(音声)からメール(活字)に完全に移行してしまいました。

 

さて、当該アンケートの結果は、仮説が支持されました。

f:id:TDMA:20210205113832p:plain

 

ここから分かるように、「強く思う」と「ややそう思う」を合計すると、私の生徒たちの殆どが「テキスト」のコミュニケーションが心地よいと回答しており、親世代が電話(実際は電話でなくLINE通話などのIP電話の類)してくることに、自由記述において「うざい」というコメントが散見されました。

このアンケートからまだ3年しか経過していませんが、私はこの3年間で、今度はテキストから動画(音声)に彼らのツールが逆シフトしているのではないかという印象を受けました。

今まで「動画(音声)」と書いてきましたが、正確には動画が伴わない「音声」のことです。時間の合間にYouTubeをラジオ代わりに聞いたり、AbemaTVの音声だけを聞いたりというという具合です。

2コマ続きの私の授業の合間の生徒たちを観察していると、耳にイヤホンを入れて、YouTubeを再生している風景をよく見ますし、私自身も移動中に同じことをしています。

いわゆる「ながら」行為の典型です。お風呂に入りながら、キッチンで料理をしながら、車を運転しながら、の「ながら」行為において、動画を伴わない音声が非常に有効なのです。よって、本当はこのように不得意なブログを書くよりも、最低2人くらいで、聞き手を設定し、テーマを絞った音声ブログにした方が、たぶん、もっとたくさん読んで(聞いて)いただけるのだと思います。

 

つまり、その本質は忙しい毎日の中での「ながら」視聴にあると思っています。

 

今年は大学・大学院の授業がすべてオンラインになってしまいましたが、私の顔を見ながら講義を聞くよりも、音声だけの方がどれだけ学生諸氏にとっては良いかという議論もしたことがあります。

実際、東京大学水越伸先生は、コロナ禍におけるSoundCloudを通じたポッドキャストについて同じ指摘をしています し、古くはラヂオデイズはだいぶ前からこの本質を捉えたサービスを展開しており、同プロデューサーで作家の平川克美氏は「ラジオは聞く方もやる方もコタツで適当にできるからいい」ということをいつもおっしゃっていました。

 

さて話をClubhouseに戻すと、テキストか音声かという議論も重要ですが、なにより「ながら視聴への適合性」ということが重要なのではないかと理解しています。

活字に最適化されている人にとっては、音声は「斜め読み」ができないので扱いづらいと言われることがありますが、移動時間を使いたい人にとっては活字より音声が適しています。今の時代、スマホを基準に考えた場合、「メディアとしてのスマホ」がどのシーンで利用されるのかということを良く考える必要があります。

 

どうやら高校生向けアンケートはアップデートする必要がありそうです。テキストと音声との二項対立ではなく、もう少し立体的に、その利用シーンについて聞く必要がありそうです。

 

ちなみに、2021年度の私の大学2年生のゼミは、オンラインになってしまうのであれば、Clubhouseで公開ゼミをやってもいいかなと思っています。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

 

----

IT前提経営®︎アドバイザリーでは、ノマドワーク導入のハードルを解消する具体的な助言(セキュリティ担保などの必要なIT投資や社内ルールの整備などに関するアドバイス)による働き方改革の推進についてご支援させて頂いています。

ケーススタディ_働き方改革支援

その他支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。

また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

----

続・働き方改革の本質〜「場所・時間からの離脱」と「複業」〜

こんにちは、高柳です。

 

とにかく、コロナ禍になって「働き方」についての取材や執筆依頼が増えました。これといって働き方に詳しいわけでもないのですが、今から12年ほど前、経営していた会社を「ノマドワーキング化」したことが当時は物珍しく、日経ビジネスをはじめ新聞各紙に取り上げて頂きました。2017年にその実践を書籍(まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」)にまとめさせて頂きましたが、図らずして再度アウトプットするタイミングになったのだと思います。

 

今回はこの「働き方」を、私なりに因数分解をしようと思って筆を取りました。「働き方」を構成する要素は多数あります。ただその本質は大きく2種類しかなく、つまり「場所・時間からの離脱」と「複業」です。

 

もう少し具体的にしてみます。テレワークを全世界、特に日本全体が経験した今(北欧では大昔から当たり前のことでしたがその話はまた機会があればします)、「場所」からの離脱は理解できるが「時間」から離脱されては困る、というのが、経営者や中間管理職からよく聞かれる言説です。もちろん、その会社において、社員が勝手に「時間」から離脱されては大変なのは理解できます。しかしここで言う「時間」はその人がある1つの仕事で働く単一の時間のことを言っているのではないのです。

 

かつて経営していたITの会社で社員から「ブログを書いていて、そこから収入を得ているが会社に報告する必要はあるか」という相談を受けたことがあります。この相談をした人のブログには広告が掲載されており、一度書いたブログが24時間365日の営業マンとなり、稼いでくれている訳です。ではこの人がどこで「労働」、つまりブログの執筆を行なっているかについて聞いてみると、業務時間外や土日だと言います。私としては会社の業務に差し障りなければまったく問題ないし報告も不要、と伝えた訳ですが、つまり彼は「時間」から離脱して「副業」ではない「複業」を実践していたことになります。正確には「彼」ではなく「彼の分身としてのブログ」そのものが、です。

 

この話は、まさにIT前提経営®️の6大要素の「デジタルマーケティングの適切な導入」そのものではあるのですが、多くの方が「複業」を「副業」と捉えるので、そこに「時間」の取り合いの概念が入り込んでしまい、めんどくさい整理が必要になっているのです。しかしここで事例を示したような「複業」であれば「時間」の概念から開放されるため、給料を支払ってる身としても、何ら問題にならないのです。

 

一方で、複数の組織に所属して、複数本の事実上の時給の仕事を抱えてしまっては、1日24時間の中に収まらなくなってしまうため、これは「働き方」としても、その人の所属先の人事管理としても最悪です。多くの場合はこの最悪の事例を標準として想定してしまっているのが、この問題の理解が進まない理由です。

 

またこの「複業」を支えるのが「場所」からの離脱になります。私は今から30年近く前に、大学の研究室で研究をしながら起業したため、そもそもオフィスのような場所から離脱した状態で社会人生活を送ってきました。場所からの離脱が「複業」を支えることは経験的に理解していたのです。そういう意味では、1990年代半ばから今の今まで、私の仕事のすべては「ノマドワーク」(私は「テレワーク」は場所の離脱からの制約が大きいため「ノマドワーク」と区別して使っています;詳細はこちらの記事を参照)に支えられた「複業」ですので、このコロナ禍でも生活はまったく変わっていないと言っても過言ではありません。

 

事実アカデミアにおいても、当時コロンビア大学に所属していた故・マイケル=ハウベン氏のネチズン(Netizen=Net+Citizenの造語)に関する各種エッセイや、社会学者の公文俊平氏の「智民による智業」の考え方は、今で言うオンライン(当時はサイバースペースと言う言葉が多く用いられていました)での仕事が前提に論じられており、ここで整理した2つの「働き方」の因子とかなりの部分が重なるのです。

 

コロナ禍がどのように影響したかは別として「働き方改革」と「副業」の文脈が同時に走る意味は、この辺にあるように思います。しかし「副業」ではなく「複業」が重要であったり、その背景にある、私たちの働き方を支えるIT技術のことだったりを、丁寧に整理しないと、それぞれの因子だけ捉えても、説明がつかず、ゴールもわかりません。

 

従って、1回目の緊急事態宣言中にサービス学会からの依頼で書いた緊急寄稿には、このテレワーク現象は、企業側がその本質を理解しないため、つまりは、企業組織がその文化変容を本気で考えないならば、決して根付かずにすぐに元に戻る、と申し上げたのです。そして今となっては、ほぼそれが実現してしまった格好です。個人的には、ぜひ良いところは残して欲しいと思います。その理由の一つに、いわゆる「優秀で若い人材の確保」という経営における喫緊の課題があります。

 

IT前提経営®️の6大要素に「デジタルネイティブの理解」という切り口もあります。これからの会社組織や社会を背負っていく若い世代が一体何を考え、どのような行動をしているかということを真剣に考え、昔の世代間ギャップよりもはるかに大きい違いを理解した上で、受け入れることが重要です。長く大学の教員をしていて感じるのは、デジタルネイティブたちが就職先を選ぶクライテリアの中に、確実に「働き方の自由度」が入ってきているということです。それも「必ずしも朝出社しなくていい」というような画一的な決めつけではなく「複業を伴うモビリティーの高い生活の確保」のような、MONOではなくPOLYな価値観だと推測されます。

 

最近バズワード化している「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の本質もまた、「単なるIT活用」のようなMONO(単一の意)な発想ではなく、上述のような「デジタルネイティブの理解」のような複合的なPOLY(多くの意)な発想が重要であり、当然それを実施する企業組織もまたPOLYな発想をすることで、DXが完結するのだと考えています。従ってそれはかなり面倒臭いことで、目下ご支援させて頂いている多くの企業組織でも、情報システム部門だけというMONOな活動から脱却して、すべての部門の横連携(POLY)の発想でこれに挑んでいるのです。

 

「働き方」については、経営としては取り組まなくてはならないものの直接的なインセンティブが見えにくい分野だと理解しています。ただ1点、将来の人材という観点においては、経営にとっても直接的なインセンティブになり得ると考えており、したがって、IT前提経営®️の中の「デジタルネイティブの理解」は日に日に重要度が増しているのです。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

 

----

IT前提経営®︎アドバイザリーでは、ノマドワーク導入のハードルを解消する具体的な助言(セキュリティ担保などの必要なIT投資や社内ルールの整備などに関するアドバイス)による働き方改革の推進についてご支援させて頂いています。

ケーススタディ_働き方改革支援

その他支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。

また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

----

ECの成功事例を振り返り思うこと

こんにちは。高柳です。

 

私はECの売上向上の専門家ではありませんが、これまで多くの事業会社のECへのチャレンジに助言をしてきました。

 

古くは2000年からです。最初の案件はとても小さなBtoBの冷凍食品会社におけるBtoC進出のお手伝いでした。まだSNSも無く、デジタルマーケティングという言葉もありませんでした。その時代のECはとても簡単なもので、いわゆるカートを自前で作り、サービスをはじめたばかりのオンライン決済会社と契約して決済もモジュールをインプリメンテーションするというものです。

 

いわゆる、私がいうところの No Making, Just Using の時代ではなかったため、すべて自前で開発する必要があり、今よりも何十倍も工数がかかりました。またUIやUXといった概念も今ほど大衆化していなかったため、当時、スーパーマーケットECの成功事例として取り沙汰されていたオーストラリア大手スーパーマーケットのWoolworthsのECを参考に、画面遷移などを一生懸命真似たのを覚えています。

 

その上で、広告予算を確保し、今のように複雑化していないネットの広告枠を買いました。確かYahoo!の純広告だったと思います。このようにスタートした小さなECサイトYahoo!の広告が開始されると同時にリリースとなりました。

 

さて、驚いたことに、このECはリリース後すぐに、受注のメールが秒速何通というレベルで飛び込んできました。発送用の段ボールは大量に発注していたため問題ありませんでしたが、予算の関係で発送用の伝票作成が「手作業・手書き」でした。最初は喜んでスタッフとともに受注メールの数を数えていましたが、発送担当者の顔色がだんだん悪くなってきました。そこで、まさか使うとは思っていなかった、数量限定のページに急遽差し替え、事なきを得たのです。その晩は私たちのチームも総出で発送伝票を夜通し書きました。バックオフィスを自動化していればこのチャンスを乗り越えられたと思う一方で、当時はまだ競合も少なく、受注予想がまったくたたなかったということもあり、それ以降、受注が多かった場合、少なかった場合など、プランCくらいまで予算に応じた対応を考えるようになりました。このECサイトはあれから20年以上経過した今も健在で同社の売上を支えています。

 

次に印象的だった案件は最初の経験から10年が経過した2010年頃のもので、こちらは打って変わってどなたでもご存知の大手小売業のお客様です。アパレル業ということもあり「サイズ」という大きな難題がつきまとう業種でした。

 

冒頭書いたように私はECの専門家ではなく、同社の経営者にTDMA(Tech Driven Management Advisory:IT前提経営®︎)を提供している立場だったため、ある地方の、ECの売上アップにコミットする専門会社に同社のECの立て直しを依頼し、ベンダーコントロールを行っていました。

 

この時代になると、私は No Making, Just Using を口を酸っぱくして言っていたため、ECサイトのリニューアルにあたっては、既にあるサービスをそのままいくつも使ってもらい、リニューアルの費用をミニマイズするようコントロールしました。その上でしっかりと各種ビーコンを埋め込み、ABテスト等を繰り返しながら、キャッシュアウトプロセス(ECの顧客が商品を選んでから支払いを済ませるプロセスのこと)のみならず、当該EC全体のUIもTry&Errorで効率化していきました。

 

同時に、SNS時代に突入していたため、SNSを含めたネット広告も専門会社の方々に最適化してもらい、その上で、マス広告のチームと連携し、テレビをはじめとする媒体と、ネットの連携を仕上げていきました。既に認知度のある会社のECというのは、すぐに数字に出ます。私の方は、経営者にTDMAの中でアジャイルにTry&Errorを繰り返していく意味について説明をさせて頂いていたため、「徐々に」改善していく売上を辛抱強く見守って頂きながら、最初の四半期で仮設定していた予算を達成しました。当然、改善幅は億単位で、同社の2,000億円近い連結売上の中でも成長領域として印象付けることになりました。

 

最後にご紹介する案件は、現在も私が目下アドバイス中のお客様です。同社にはこの10年くらい助言をさせて頂いてきましたが、現在は No Making, Just Using に従ってECも在庫システムなどもSaaSに移管中です。

 

このお客様は年間売上が10億円程度の中小企業ですが、商品群はとても有名で、BtoBの展開を経営者3代に渡って行ってきました。インターネットの活用によりBtoCへの進出のみならず、FAXや電話を利用して受発注していたBtoBもEC化してきました。ここはとても重要な観点でBtoBと言えど、先方の担当者は人であり「個人」なのです。従って、その担当者という「個人」は、つまり生活者であり「C(Customer)」であることには疑いもなく、BtoBでもデジタル化はほぼBtoCと同じだと私が言い切る根拠になっています。

 

そのようにスタートしたBtoCだけではないBtoBのEC化ですが、最初の月から店舗1カ所を超える売上を叩き出し、今ではキャンペーンなどを打つと年間の売上の中でも無視できない重要な数字をつくるまでになりました。

 

さて、同社がECで成功した理由のひとつには「自分ごと」としてECに取り組んできたからだと感じています。前述した通り、SNSの時代に入り、デジタルマーケティングは複雑さを極めています。MA(Marketing Automation)のような言葉ができて、人を介さなくてもデジタルマーケティングができるようになってきた反面、それでも商品知識、商品哲学、ペルソナの正しい理解、などについて詳しいのは当該事業会社です。同社は3代続く老舗であることもあり、経営者自らがサイトのデザインから発信する文章や写真までこだわり抜き、同社の既存顧客や潜在顧客に対して、これまでもイベントやすばらしい品質のカタログと共に伝えてきました。オンラインになってもその拘りはまったく変えず、InstagramなどのSNSを中心に、これまで以上に、高い質感で写真、動画、文章などあらゆる手段を用いて伝える努力を日々されてました。まさにこの哲学的な活動に呼応し、BtoBの先方担当者である「C」とBtoCの「C」が、ECという手段を通してさらに購買するようになり、持続的かつ右肩上がりに売上を伸ばしているのです。つまりそれは「自分ごと」として取り組む姿勢が結果に繋がっているのです。

 

「専門業者(ベンダー)に任せればいい」という「他人ごと」がECだけでなく、ITの様々な失敗を招きます。自社の哲学のもと完成された商品のマーケティングを完全にベンダーに委ねてしまったり、ベンダー任せによってベンダーロックインに陥り身動きがとれなくなってしまったりということが積もり積もると少しずつズレが生じ、デジタルマーケティングを運用する際には大きなズレになっている、そのような状況では成功するものも成功しなくなってしまいます。

 

デジタルは手段でしかありません。デジタルだから人に任せるのではなく、そもそも、やることはほとんどこれまでと変わらないのですから、「自分ごと」として自分でやることが肝要なのです。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー

立教大学大学院 特任准教授

高柳寛樹

 

----

IT前提経営®︎アドバイザリーでは、ITに関して事業会社が抱える課題や疑問を網羅的にサポートするIT前提経営顧問®︎サービスの中で、適切なベンダーコントロール(健全な関係性の構築や、必要に応じた内容交渉による牽制など)をご支援させて頂いています。

ケーススタディ_IT前提経営®︎顧問

その他支援の事例をまとめた資料については弊社のIT前提経営®︎アドバイザリーページよりダウンロード頂けます。

また、高柳の著書はこちらよりご参照ください。

IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く近代科学社digital)2020

まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017

----